情報機関とインテリジェンス法制

国の情報機関と秘密保護をめぐる動き。2013年の特定秘密保護法から、2026年の国家情報会議設置法(「国家情報局」の新設)まで。

2013 特定秘密保護法 ─ 「特定秘密」の指定と厳罰化 安全保障に関わる重要情報を行政機関が「特定秘密」に指定し、漏洩に重い罰則を設ける仕組みが、賛否が分かれる中で成立した。
事実 ― 何が定められたか

2013年、特定秘密の保護に関する法律e-Gov が成立した。防衛・外交・スパイ活動の防止・テロ防止の4分野で、行政機関の長が安全保障上特に秘匿が必要な情報を「特定秘密」に指定し、その取扱いを適性評価を受けた者に限り、漏洩には最高で懲役10年の罰則を科す1

推進意見

政府は、我が国および国民の安全の確保のため、安全保障に著しい支障を与えるおそれのある情報は特に秘匿する必要があるとして、この枠組みを整えたと説明した。とりわけ、同盟国・友好国と機微な情報を共有するには、共有した秘密を確実に保全する国内法制が前提になるという、安全保障上の必要論が背景にある2。過去に情報漏洩事案が問題化したことも、行政機関の長が指定し罰則で保全する仕組みを求める契機とされた3

批判意見

成立時には、報道機関・学術団体・弁護士会などから、何が秘密かが広く曖昧に指定されうること、取材・報道や国民の知る権利が萎縮しかねないことへの強い懸念が示された4,5

争点

安全保障上の情報保全と、知る権利・報道の自由・チェックの実効性をどう両立させるかは、その後のインテリジェンス法制に一貫する論点となる。

最終更新

2024 セキュリティ・クリアランス制度 ─ 重要経済安保情報保護法 経済安全保障に関わる重要情報を扱う人の信頼性を国が確認する「適性評価(セキュリティ・クリアランス)」制度が設けられた。
事実 ― 何が定められたか

2024年、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律e-Gov が成立した(2025年5月16日施行)。経済安全保障上重要な情報を「重要経済安保情報」として指定し、これを取り扱う者について、国が経歴や信用状態などを調べて信頼性を確認する適性評価(セキュリティ・クリアランス)の仕組みを設けた1。安全保障分野が中心だった特定秘密保護法に対し、保全の枠組みを経済・技術分野へ広げるものと位置づけられる。

争点

同盟国・友好国との情報共有や先端技術の保護のために必要だとされる一方、適性評価が個人の経歴や信用状態の調査を伴うこと、対象となる情報の範囲が広がりうることへの懸念も示された。誰のどの情報を、どこまで国が調べ秘匿するかという線引きが論点となる。

最終更新

2026進行中 国家情報会議設置法 ─ 「国家情報局」の新設 内閣情報調査室を格上げした「国家情報局」を新設し、情報の司令塔となる国家情報会議を置く法律が成立した。
事実 ― 成立までの経緯

2026年3月13日に閣議決定された国家情報会議設置法案e-Gov は、4月23日に衆議院本会議で、5月27日に参議院本会議で、それぞれ可決され成立した1,2。与党の自由民主党(自民党)・日本維新の会に加えて国民民主党などが賛成し、立憲民主党や共産党などは反対した2。立憲民主党は、人権侵害の防止などを盛り込んだ修正案を提出したうえで、委員会で政府案に反対した2

事実 ― 何が変わるか

国家情報会議設置法により、内閣官房の内閣情報官と内閣情報調査室を発展的に解消し、その事務を引き継ぐ「国家情報局」を内閣官房に置くとともに、首相を議長とする国家情報会議を新設する1,3。国家情報局には企画立案と総合調整の権限が与えられ、所掌は重要情報活動・外国情報活動への対処や特定秘密の保護に関する事務などに及ぶ1,3。また法第7条は、内閣官房長官や関係行政機関の長が、議長(首相)の求めに応じて資料・情報の提供や説明を行うものと定める1。施行について附則第1条は「公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と規定しており1、政府は2026年7月の発足を目指すとされる2

事実 ― 附帯決議による配慮事項

衆参両院の内閣委員会では、本法律に附帯決議衆議院内閣委員会ニュース 参議院附帯決議 が付された。その主な内容は、以下の通り4
(1)プライバシー保護への十分な配慮
(2)選挙関連情報の収集禁止(政治的中立性の確保)
(3)所掌事務と無関係な情報収集の依頼を行わないこと
(4)活動内容の国会への適時の説明

高市首相は5月27日の会見で、衆参両院の附帯決議も踏まえる旨を述べた5

推進意見

サイバー攻撃や偽情報の拡散など安全保障上の脅威が変化するなか、各省庁にまたがる情報の縦割りを解消する司令塔が必要だとする4。本法は行政機関相互の関係を律する組織の整備であって、新たな情報収集の権限を作るものではなく、附帯決議によってプライバシーへの配慮と政治的中立性も確保される、という立場である4。首相は成立後の会見で、本法は行政機関相互の関係を律するものであり、国民のプライバシーに関わるリスクを高めるものではないと説明した5

批判意見

専門家や弁護士会からは、情報を集約する司令塔と首相への情報提供を担保する仕組みを設けながら、それを監視・抑制する独立した機関や国会の関与が不十分だ、との批判がある。参考人として意見を述べた弁護士は、情報機関の暴走を防ぐ外部チェックの体制がオランダ・ドイツ・韓国などにはあるとして、国会の関与や第三者機関による監視、収集してよい範囲を法律で定める「歯止め」、一定期間を経た後に記録を開示する制度の検討が要ると述べた6,7。自由法曹団や弁護士会は、独立した監視の仕組みがないまま情報収集を強化すれば、プライバシー(憲法13条)・思想良心の自由(19条)・表現の自由と知る権利(21条)が脅かされ、過去にあった市民監視の乱用が繰り返されかねないとして、廃案を求めた8,9

争点

確定したのは、内閣情報調査室を格上げした国家情報局の新設と、国家情報会議の設置である。政府・与党はこれを一連のインテリジェンス改革の「第一歩」と位置づけており、自民・維新の連立合意では、対外情報庁(報道では「日本版CIA」とも呼ばれる)の創設やスパイ防止関連法の制定も掲げられている10。これらは本法とは別の制度・法案として今後の論点となる。

出典

最終更新